大阪でおひとりさま串揚げ |
とんぼ帰りで東京に戻るというので、
「せっかく大阪まで来たし、お天気もいいので遊んで帰ります」と言って
天王寺駅で別れることにした。
ぽっかりできたフリータイム。どうしよう。
しばらく悩み、駅から歩いていける通天閣を目指した。

卒業旅行のグループや大学生のカップルでいっぱい。
みんなふわふわとした服を着て、ふわふわと歩いている。
ビリケンさんの脇には「V6」とか「嵐」のメンバーと
結婚したいと書いてある絵馬が鈴なりだった。
何年か前に串揚げを食べた店がまだあることを確認したら、
無性に串揚げが食べたくなって、女性ひとりでも
入れそうな店を探してうろうろ歩いてみる。
ちょうど通天閣のすぐ前にある串揚げ屋さんの行列が減り、
女子学生のグループが並んだので、
その後ろに並ぶことにした。
私の後ろに別の女性グループが並ぼうとしている。
これはちょうどいい、と思った瞬間
「大阪のおっちゃん」が1人、私の後ろに並んだ。
串揚げ屋にひとりで入る30代の女性はめずらしいのか、
何度も「大阪のおっちゃん」と2名客に間違えられた。
私は上下黒のパンツスーツで、「大阪のおっちゃん」は上下黒のジャージ。
カップルにしてはどう見てもアンバランスなのに。
案の定、カウンターで隣同士に通された。
ラーメン屋さんの隣同士と串揚げ屋さんの隣同士は違う。
だって、串揚げ屋さんでは
「二度漬け禁止のソース」を共有しなくてはならない。
どういうタイミングで漬け合えばいいのか?
やっぱりおじさんが漬けた後に私というのが筋だろう?
なんてことを串揚げが揚がるまで考えてしまい、
まったく落ち着かない。
揚げたての串揚げを持ってくるときも、
カップルに持ってくるみたいに、おじさんと私の間においていく。
寿司なら、ひと目見れば自分が注文したものかどうか分かるのに、
衣がついた串揚げのネタを判別できる能力は、関東人の私にはない。
最初にきた串揚げには、串カツが4本入っていて
それは「おっちゃん」の注文したものだった。
こういうときは軽く冗談でも言い合えば和むのに、
「おっちゃん」が無口を通すから、こちらも黙々と串揚げを食べる。
「おっちゃん」も私もただ一人で、串揚げを食べたかっただけ。

左から串カツ、うずら、牡蠣、じゃがいも、ショウガ
ショートムービーのような串揚げ屋さんでのひとコマ。
一人客をめぐる物語、そんな短編小説を書いたら面白いかもしれない。