トレランの名著『ランニング登山』下嶋渓著を読む
2009年 11月 10日
『ランニング登山』(山と渓谷社)を読んだ。
著者は、1970年代から山を走る魅力に取りつかれた下嶋渓(しもじま・けい)氏。
東京工業大学の教官だったそうだが、
1999年にスイス・マッターホルンで滑落し、55歳で亡くなった。
『ランニング登山』は、鏑木毅選手など多くのトレイルランナーが影響を受けた本として
たびたび紹介されているので、どうしても読んでおきたかった。
廃刊になっているため、区をまたいだ図書館から
取り寄せてようやく手にすることができた。
▲表紙には「荷物も感傷も捨て去って、素手で大自然に飛び込めば、
新しい山の姿が見えてくる・・・」というコピーがある。
発行は1986年(昭和61年)。バブル時代の幕開けと重なる。
男女雇用機会均等法が施行され、新人類なんて言葉が流行していたころ。
この本には、トレイルランニングなんて言葉は出てこない。
山を走ることは、「ランニング登山」「快速登山」
「山岳ランニング」「山岳走」「早駆け」と表現されている。
前書きにあたる「山登りに定義はない」の書き出しはこうだ。
―「あなたの趣味は?」と問われて、「山登りです」あるいは「ランニングです」と
答えているうちは相手の反応も穏やかだが、それらをまとめて「山を走ることです」と
答えると様子はかなり変わり、「山って走るものなのですか?」と変人、奇人扱いされ、
話の途切れるのが落ちである(引用ここまで)―
”市民権を得ていない趣味の話をしようとする”ことを断っている。
内容は「快速登山事始め」「ランニング登山への招待」「山を走る技術」
「医学的・生理学的な面から見た山岳走」
「シューズ、装備、食料」「ランニング登山雑学」の6章で構成されている。
趣味のひとつに過ぎない山岳走をスポーツとして
確立させたいという純粋な思いが文章からほとばしっていた。
後書きで、国内レースを増やすのは無理かもしれないと危惧しているが、
現在では、OSJでも年間10戦を展開できるようになり、
レースに参加する人も増加中。
トレランは、競技スポーツのひとつになったと思う。
ご存命だったら、下嶋氏に直接インタビューをしてみたかった。
思わず笑ってしまったのが、「食料、酒、タバコ」が、
山から切り離せないものとして語られていたこと。
アルコールへの評価は賛否両論あるがと前置きし、
飲まないほうが無難といいながら、全否定はしていない。
「ランニング登山雑学」のQ&Aにも、
ビールに疲労回復効果はあるか。という質問があった。
答えは「アルコールによる軽い麻酔作用で疲労が
解消したような気分になるだけで、
酔いが醒めれば現実に引き戻されるから、
禁断症状を起こさぬように
飲み始めたら寝るまで飲み続けること!」
エクステンションマークまでついているところに、おおらかさを感じる。
その前にも「行動中の給水には市販の缶ジュース、スポーツドリンク、
水、ビールのうちどれがよいか」という質問がある。
その答えは、ぜひ読んで確かめてほしい。
ランニング登山には「水」と結論づけている。念のため。
それを導くまでの論理展開が面白い。
私もそうですが、人はどうも自分に興味のあるところだけ「つまみ読み」をしてしまいます。下嶋さんのこの著作にしても、多くのトレイルランに夢中の人には、名著となるのでしょう。ですが、名著と意義のある本とは違います。
なぜかというと、彼自身かの本に「独善的かつ偏向的」な意見だと最初に書いておられますが、本当にそう思うからです。
たとえば「登山者への提言」という一節のなかで「登山者には運動神経が鈍く、スポーツ音痴の人が多い。自分の性格や能力を数値で明瞭に評価し、他者と比較・競争することをきらい、一定のルールのもとで全力を出し切る能力と精神力に著しく欠け、狭い殻にとじこもってひたすら自己満足にひたる。」と、登山者の多くを切り捨てています。
また、この本ではスポーツとしてもっとも重要な「安全」についての記述があまりに少なく、ノウハウ本としても自己の興味一辺倒に終始しています。まぁ、そういう時代だった言えばそれまでですが、その意味で自身が「独善的かつ偏向的」と言ったのでしょうね。結局、彼は登山中に遭難死しました。果
はじめまして。ブログにお越しいただき、ありがとうございます。私自身は下嶋さんの本を名著ではなく、原書と認識しています。本当に独善的で偏向的な本なのですが、こういう偏った本が出せる時代におおらかさを感じました。うるとらももさんのHPも拝見しました。またいろいろご意見お聞かせください。